【115年続いてきた婚外子への相続分差別が撤廃される】
2013年9月4日、最高裁大法廷は、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」とする民法の規定を、「法の下の平等を定めた憲法に違反する」という決定をしました。そして、12月の国会で、差別規定を削除する民法改正案が可決されました。
ようやく「家」制度をとっていた明治民法以来、今日まで115年も続いてきた婚外子に対する相続分差別が撤廃されます。
昭和22年の民法改正のとき、家督相続は廃止されましたが、相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や法律婚を正当な婚姻として尊重・保護し、また、法律婚以外の男女関係やその生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたことから、「嫡出子」と「嫡出でない子」の間の相続分に区別がもうけられたようです。諸外国でも、日本と同じく婚外子の相続分を制限する傾向にあったようですが、1960年代後半以降、婚外子差別が解消され、欧米諸国では、フランスで2001年に差別が撤廃され、差別のある国がなくなりました。
最高裁決定は「相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられている」とした上で、「嫡出子と朧出でない子とめ問で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取り扱いにあたるか否か」を検討して、2001年7月の時点で、憲法14条1項に違反していたとしました。その理由として、①婚姻や家族の形態が多様化し、婚姻や家族のあり方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいること。②諸外国の状況も大きく変化し、平等化が進んでいること。③国連の自由権規約委員会や子どもの権利委員会から法改正の勧告を繰り返し受けていること。④嫡出子と嫡出でない子の区別にかかわる法制等が変化していること(住民票の世帯主と続柄の記載、戸籍の父母との続柄記載、国際婚外子の日本国籍取得に関する国新法の平等化)などを挙げました。そして、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として不利益を及ぼすことは許されない、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているとしたのです。
【最高裁決定が残した3つの問題点】
この最高裁の決定は歓迎すべきものですが、手放しで喜ぶことができません。1つは、「区別」という言葉を使って、「合理的理由があるかどうか」という論理の立て方をして、立法府の裁量を認めている点です。1998年に国連で、子どもの権利委員会の日本政府の審査を傍聴した時のことですが、外国の方に声をかけられ、「合理的理由のある差別」という憲法14条に関する目本の論理の立て方に疑問を投げかけられました。「合理的理由のある、許される差別なんてあるの?」という疑問です。
2つは、社会状況の変化という国民の意識に依拠して判断しているという点です。裁判所が根拠とすべきなのは、平等や基本的人権を保障した憲法や国際人権条約であるべきです。決定は、国連の自由権規約や子どもの権利条約に言及しつつも、条約違反という判断はしませんでした。
3つ目に国連の女性差別撤廃委員会が、繰り返し婚外子差別の撤廃を勧告してきたことには言及しませんでした。婚外子差別は子どもに対する差別であると同時に法律婚をしていない女性に対する差別であることには触れたくなかったのでしょう。
ところで、婚外子差別は相続分以外にもあります。法律婚優先の考え方を改め、法律から「嫡出子」という言葉をなくし、子どもは誰をも「子」と表記すること。戸籍法を改正して、出生届の「嫡出子」か「嫡出でない子」かの記載欄を削除することなど、今後も差別撤廃に向けた取組みが求められています。
書籍のご紹介
大阪弁護士会から、2014年2月には、性暴力犯罪を巡る日本の刑法や運用の問題点を明らかにし、諸外国の法制を参考に、改革を提言する、「性暴力と刑事司法」を、信山社より出版する予定です。
ご期待ください。