【DV防止法で保護される人の範囲は広がったが…】
2001年に誕生したDV防止法は、2004年、2008年と2回の改正を経て、少しずつ、被害者が受けられる支援の内容が広がり、保護命令の対象や禁止される行為も拡大されてきました。
そして、今年6月には、3回目の改正案が国会で可決されました。今回の改正により、これまでは、DV防止法で保護される人が、「配偶者」あるいは「事実上の婚姻関係と同様の事情にある者」(事実婚)に限られていましたが、来年1月からは、「生活の本拠を共にする交際相手」、つまり「同居している交際相手」から暴力を受けた人も、配偶者暴力相談支援センターの支援を受けられ、保護命令制度を利用することができるようになります。
「同居している交際相手」と、これまで保護の対象になっていた「事実婚]と、どこが違うのでしょうか。立法者によると、「婚姻意思」がなくとも「共同生活」を送っていれば、保護の対象となり、居住期間の長短や生計が同一かどうかなどは、判断の主たる要素にはしないということです。
その意味では、これまでの配偶者または事実婚のカップルよりも救済される人の範囲が、多少広がることになります。また、「婚姻」を前提としなくとも保護されるという意味では、同性カップルの被害者が保護されやすくなると考えられます。
立法者の説明では、同居している交際相手の場合には、「外部からの発見・介入が困難であり、かつ、継続的になりやすい」といった配偶者からの暴力の場合と同様の事情にあるために、配偶者からの暴力に準じて、DV防止法の対象にすることにしたということなのですが、果たしてこれで十分でしょうか。
【国際スタンダードに基づいた抜本的改正を】
内開府の調査では、交際相手からの暴力、デートDVの被害を受けたことのある人は、約10人に一人にのぼっています(女性13.7%、男性5.8%)。そして、交際相手や元交際相手によるDV型ストーカー事件では、被害者やその親族が、加害者によって殺害されるという痛ましい事件も後を絶たない状況にあります。このような実情を見るならば、DV防止法によって保護される人の範囲は、「同居」の要件なく、交際相手や元交際相手から暴力を受けた人にまで広げられる必要があります。
「配偶者」からの暴力防止という枠組みのもとに制定されている現行DV防止法を組み換え、抜本的な改正をすることが求められています。保護される人の範囲に同性カップルを含むと明記すること、また、保護命令制度に関して、身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的暴力の被害者やストーカーの被害者などにも申立権を認める、接近禁止命令の期間制限を設けない、現行法の発令の要件を緩和する、緊急保護命令制度を導入するなどの改正が必要です。
さらに警察や検察に女性に対する暴力の専門部門を設置すること、裁判所など司法関係者の定期的・組織的な研修による専門性の確保、警察官の義務などの明記、DV事件の積極的逮捕および起訴の方針の明記などが求められます。
国際スタンダードに基づいて日本のDV防止法を改正するため、2013年6月24日、私が関わっている国際人権NGOヒューマンライツ・ナウでは、被害者の声や実例をもとにDV防止法の改正の提言をまとめた「女性に対する暴力報告書」を公表しました。興味のある方は、是非、ヒューマンライツ・ナウのウェブサイト(http://hrn.or.jp)をご覧いただき、日本のDV防止法の抜本的な改正に向けて、ともに声をあげていきましょう。