【機能していないDV根絶法】
昨年9月、ヒユーマンライツ・ナウ(HRN)から当事務所の雪田弁護士など他のメンバー5名とともにモンゴルに行き、モンゴルの女性の人権につき調査を行ってきました。HRNは、法律家、研究者、ジャーナリスト、市民などが中心となって2006年に発足した日本を本拠とする国際人権NGOです。国境を越えて世界、特にアジア地域の人権侵害をなくすため、人権侵害に苦しむ地域への事実調査、実態の告発と意識喚起、政策提言とアドボカシー、草の根で人権を守る人々への支援とエンパワーメントを通じて、人権状況の改善のために活動しています。
現地調査に行く前には、モンゴルの現状を知らなかったので、モンゴルの憲法など法律の調査を事前にし、モンゴルのDV根絶法についても勉強をしました。
モンゴルでは2004年にDV根絶法(The Law to Combat Domestic violence)が制定され、翌2005年に施行されています。DV根絶法では、DV加害者に対して①DV加害者に対して家から退去するよう求めること、②DV被害者に接触することを禁止すること、③子どもとの接触を禁止すること、①共有財産の利用や処分を禁止すること、⑤矯正訓練を受けさせること、⑥アルコールや薬物の治療を受けさせることなどを裁判所が命ずることができると定められています。そして、裁判所は、命令の内容に応じて1年の期間まで命令を発することができると定めがあります。しかし、2008年のCWDAW(女性差別撤廃委員会)の報告によれば、DVは高い頻度で生じているにもかかわらず、私的な事柄だと相変わらず提えられており、DV根絶法に基づく申告は低くこれまで20件に留まっているということでした。
なぜ、モンゴルではDV根絶法が存在するにもかかわらず、機能していないのか、国民性の問題なのだろうかという疑問を抱きつつ、現地で女性の人権問題に関わる各機関を回り、聞き取り調査を行いました。
その中で分ったことは、昨年の4月、モンゴルではDV被害女性が離婚裁判に行く途中に加害者に殺害されてしまうというDV根絶法が機能していないことを象徴する事件が発生し、DV根絶法については改正を予定しているということでした。当該女性は、裁判所に対して接近禁止命令を求めたのですが、裁判所は、DVを家庭内の問題と考え接近禁止命令を発令せず、裁判手続によって離婚することで解決をするよう勧めました。さらに加害者は、裁判所には良い夫を演じ、裁判所もこれを信じ、被害者がシェルターに入っているときに裁判所がシェルターに電話をし、和解手続を進めているのになぜ夫と会わないのかと言ってくるという信じられないこともあったということを聞きました。
【法改正による現状の変化に期待したい】
モンゴルにおいて、裁判所が、接近禁止命令など日本でいうところの保護命令の発令を躊躇するのは、保護命令を実行する方法が法律に明記されていないためです。モンゴルでは、裁判所が出した決定や判決を実行する執行機関が裁判所とは別に存在しており、当該執行機関を勤かすには、裁判所命令実施法(Court Order lmplementation Law)の中に、DVの保護命令の履行方法が明記される必要があるということです。しかし、この規定がないために裁判所が仮に保護命令を発令しても執行機関は動かず、警察も裁判所の命令を無視するということでした。
法改正は、近々行われるということで、法改正によって状況が変わることを期待したいですが、法改正だけで解決しない問題も色々あるようです。モンゴルでは公的なシェルターがなく、民間団体がシェルター運営をしているので、今後は公的なシェルターを設置することが必要です。また、DV加害者の更生プログラムや裁判官のトレーニングも実施しはじめたばかりのようで、効果が分かるのはこれからのようです。
今回のモンゴル調査については、HRNで報告書を作成しますので、関心のある方はそちらも見ていただければと思います。