当事務所は、2002年1月の開設から、昨年12月で満10年、今年は､次の10年の節目の年にあたります。この節目の年に、これまでの活動を振り返るとともに、日頃､当事務所の活動を通じてお世話になっている皆様方との懇親を深めたい、そんな思いから本年3月17日に、｢設立10周年のつどい｣をドーンセンターのパフォーマンススペースで開催し､第1部・第2部あわせて､のべ250人の方々にご参加いただきました。
第1部は､｢ジェンダー平等は進んだか?一女性の権利をめぐるこの10年｣をテーマに､｢離婚｣｢労働｣｢性暴力｣の3つの分野について､当事務所の弁護士からの報告をさせていただくとともに､ゲストスピーカーからのお話をいただきました。
【離婚と女性】
乘井弥生弁護士は、ドメスティック・バイオレンスの問題に焦点をあて、ＤＶ防止法の制定や改正という法制度上の前進面がある一方で､最近､保護命令が出されにくくなったという声のあることを指摘。平成22年に日弁連が47都道府県の配偶者暴力相談支援センターやシェルターを対象に行なったアンケート調査でも、裁判所の対応に問題ありとする回答が多数寄せられていることを紹介しました。また共同親権の論議や面会交流のあり方の論議のなかで、女性の声がきちんと社会に伝わっていないことの問題点を指摘しました。
ゲストスピーカーは、神原文子さん（神戸学院大学人文学部教授）。神原さんには、事前に当事務所が依頼者の方に実施した面会交流についてのアンケート調査の分析をお願いしていましたが、つどいでは、その結果をご報告いただきました。
養育費が約束通り支払われている割合が､他の団体が実施されたアンケート調査結果に比べて格段に高いことや、養育費がきちんと払われているほど、面会交流が継続していることなど､興味深い分析をご報告いただきました。
【労働と女性】
ゲストスピーカーは、住友電工男女賃金差別訴訟の元原告の西村かつみさん。西村さんからは、シングルマザーとして、お二人の子どもを養育した経験から、差別を是正して人並みの賃金をもらえるようになることが、精神的なゆとりにつながることや、昇格して管理職になることによって、社内から得られる情報量が格段に増えて仕事がやりやすくなったとの報告がありました。また私からは、この住友電工男女賃金差別訴訟で見えてきた､女性差別撤廃条約などの条約の重要性と､それを無視する日本政府の不当な対応を明らかにするとともに、このような政府の対応が、非正規雇用についての賃金差別是正を放置する司法の現状につながっていることを指摘しました。
また男女賃金差別裁判において、これまで勝ち取ってきた成果がある一方で､中国電力男女賃金差別事件の広島地裁敗訴判決にみるような逆流が生じていることもご紹介しました。
【性暴力と女性】
雪田樹理弁護士からは、この間、犯罪被害者保護の観点からなされた立法や政策においては前進が見られるものの、性暴力被害者の保護という点では、まだまだ十分でないこと、そして司法においては、2009年4月と、2011年７月に、性犯罪事件で、最高裁において相次いで無罪事件がなされ、その中で被害者の供述に信用性がないことが指摘されるなど､厳しい状況にあること､そしてこのような状況を変えていくための立法改正の必要性や専門性をもった捜査手法の確立の必要性などが指摘されました。
ゲストスピーカーの周藤由美子さんは、フェミニストカウンセラーとして、性暴力被害者のための意見書作成や証言の目的を､性暴力被害者について､事実とは違う神話を内面化している裁判官、検察官、弁護士たちに､その神話が事実ではないことを伝えていく点にあること、さらには一見誤解されそうな被害者の行動というものも、被害者として合理的な行動であることを伝えていく点にあることを指摘されました。そして性暴力禁止法を作るためにも、性暴力の被害実態を明らかにしていくことが必要だと訴えられました。
【心温まる皆さんからのメッセージ】
第2部の懇親会では､弁護士・司法書士の方々をはじめ、行政関係の方々、民間でＤＶ､性暴力､雇用差別の問題などに日々取り組んでこられている方々など総勢24名の方々から、それぞれの活動に触れていただくとともに、心温まるメッセージをいただきました。
所員一同、皆様のお言葉を胸に刻み、心を新たにさせていただいた一日でした。本当にありがとうございました。
