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2011年01月30日
子ども仕事・労働性差別・ジェンダー裁判事例
有村 とく子

「産休切り」・「育休切り」を流行らせない 弁護士 有村 とく子

【1 妊娠報告したら退職勧奨?そんなあほな!】

某病院の看護師Aさんからの相談事例です。Aさんは、働き始めて10か月ほどしたとき、妊娠がわかりました。産前産後、育児休暇の取得を希望していましたので、妊娠と出産予定日を看護師長に伝えました。すると、その3日後、病院の人事担当者から、2か月後に退職して欲しいと言われたのです。「うちは入職してから1年間は妊娠してはいけないことになっている。あなたはまだ1年経っていない。」というのが病院側の説明でした。

【2 法律はあっても、守られていない現実】

ここ数年でAさんのように妊娠を理由とする退職勧奨や、産前産後休業・育児休業の取得を理由にした退職強要・解雇・減給・正規雇用から非正規雇用への契約変更などの不利益取り扱いを受ける事案が増えています。これらの不利益取り扱いは、たいていは[会社の業績悪化のため]という名目で行われています。

そもそも、産前産後休業の期間(産前42日、産後56日)と産休明け後30日間は、天災事変を除いては、理由を問わず、雇用主は労働者を解雇することはできません(労働基準法第19条)。また、男女雇用機会均等法は、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いを禁止しており、育児・介護休業法も、育児休業の申し出をしたことや育児休業を取得したことを理由とする不利益取り扱いを禁止しています(第10条)。

しかし、こうした法律があっても、守られていないのが現実です。

産休切り、育休切りについての相談は、厚生労働省の「雇用均等室」(各都道府県の労働局の中にあります)が受け付けてくれます。

Aさんは、病院側の退職勧奨には納得できず(当然ですね)、退職するように言われた翌日に、大阪労働局の雇用均等室に相談に行きました。そこで、病院の対応が法律違反であるとの説明を受けたAさんは、まずは自分で病院にかけあうことにしました。ところが、辞めずに働き続けたいと言っても、病院側は、「法律があることは全部知っている。だが、病院のルールは変えたくない。統制がとれなくなって、病院がつぶれる。」として聞き入れませんでした。そればかりか、Aさんは職場の中で孤立するように追い込まれたのです。

看護師長が、Aさんのことでミーティングをするということで看護師を集め、病院の「1年ルール(入職後1年間は妊娠してはいけないというルール)はみなさんを守るために作っている。みなさんはどう思いますか?」と看護師ひとりひとりに問いかけて意見を述べさせ、「それではAさん、あなたはどう思いますか?」と聞いてくるのです。そして、副看護師長は、看護師の集まっている中で、Aさんに対し、「1年ルールのことは病院に入ってから知ったでしょう?何故避妊しなかったの?ルールに従えない人は去るしかない。」と言いました。Aさんは、「体調が悪いので、仲介の人を交えて話し合いたいと思います。」と答えるのが精一杯でした。妊娠初期のただでさえ体調がすぐれないとき、産休を取る前に、雇う側は、こういう形で本人を退職に追い込むのです。

【3 病院への是正指導を求め、再度労働局に】

Aさんは精神的な負担を最小限にした早期解決を望んでいました。最初の相談先である雇用均等室から病院側にまずは是正指導してもらうよう要請し、解決が遅れそうであれば、弁護士が代理人となって病院と交渉を始めることにしました。

さっそく雇用均等室からAさんが働く病院へ連絡が行き、病院側は、「退職金を50万円支払う」と言ってきたそうです。雇用均等室からそれを聞いたAさんは退職はしない意思表示を再度行い、是正指導の結果、退職することなく産前産後休暇を取れるようになりました。

【4 ひとりで悩まず、相談を】

昨今の不況のもと、法律で定められた労働者の権利は、ますます守られなくなっています。Aさんは勇気を出して相談し、ようやく自分の権利を守ることができました。Aさんと同じような目にあっている女性はたくさんいることでしょう。

とりわけ、雇用期間が短い非正規の女性は、産休や育休を取ると、契約が更新されなくなるという不利益を前にして、働き続けるためには、法律で認められた権利であっても行使しづらくなってしまいます。そういう人は、ひとりで悩まず、労働局や弁護士に必ず相談して欲しいと思います。

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