【絶えない離婚後の追跡行動】
NPO法人いくの学園がDV被害者を対象にしてアンケート調査とグループインタビュー調査をし、その結果をまとめた「DV被害当事者の自立支援に関する調査報告書=482人の声を聴きました=」を読んだ。
この調査結果で驚いたのは、被害者の70.5%が加害者と別居した後も連絡をされる、親戚や友人から状況や居場所を聞き出される等の追跡行為を受けていることだ。GPSを使った追跡、インターネットを利用した追跡などを経験した被害者もいる。
DVを理由とする離婚事件の調停で被害者である依頼者が、追跡行為が怖いと言うと、調停委員から「別れたあとは、あくまで他人だから、そんなに心配をしなくても大丈夫よ」という趣旨のことを言われ、過度におびえ過ぎと言わんばかりの反応が返ってくることがある。しかしこの統計をみると被害者の心配の方が正しいように思う。
そして被告者は別居後、住まいを知られないようにするために様々な工夫をしている。最も多いのは、「住民票を移動しない、または住民票を現住所と違う所に置く」、2番目は「相手の知らない地域に住居を構える」である。中には、親戚、親、友人との連絡を絶った、サービス業など表に顔の出る職業に就かないなどという回答もあった。
加害者と離れたあとも、なぜ被害者がこんなにも苦労しなければならないのかという疑問がわく。
また、多くの被害者が住宅探しに苦労している。困ったことで最も多いのが、「自分の収入でまかなえる家賃の物件が少なかった。」で、次に多いのが「公営住宅に入りたかったが、すぐに入れる見込みがなかった。」である。同居時の主な職業について、DV被害者の37.8%が無職、33.7%が派遣アルバイトパートなどの非正規雇用であるから、被害者の多くが家を出ようとすると金銭面で苦労をともなうのである。
【被害者を守る法改正が必要】
この報告書で「保護命令は役に立ちましたか?」という問いに対して保護命令を利用した方の69.3%が「役に立った」と答えているが、理由をみると第1が「守られているという安心感」であり、第2は「(退去命令で)荷物を待ち出せた」である。おそらく、被害者や被害者の支援者の保護命令の期待が低く、「一応」役に立ったということで、役に立ったという回答が多いのだと思う。
また、被害者の48.3%は、相手方の反応が怖かった、精神的に余裕がなかった、保護命令の対象ではなかった、保護命令の対象だが発令は難しいと言われてあきらめたなどの理由から申立てを行っていないので、役に立ったという回答が7割だといっても制度が機能しているとは評価できない。
現在のDV防止法では、退去命令については住居を去るための準備を立法趣旨としており、その期間は2ヵ月とまだまだ短期問である。加害者に出て行ってもらい、被害者が現住所で生活し続けるためには、退去命令の期回を長くするとともに制度そのものの見直しが必要である。また、接近禁止命令についても6ヵ月という短期ではなく長期にし、被害者が加害者からの追跡行為を受けないようにする法改正が必要だと思う。