映画「2010年宇宙の旅」が世に出た当時は、2010年なんて、遠い未来のことでした。昨年夏の総選挙で、岩盤のようだった自民党政権が壊れ、ジェンダー平等実現のために活躍してきた女性弁護士が、法務大臣や内閣府特命担当大臣となりました。
格差は広がり、貧困の問題が深刻になる今日、時代は悪くなったと嘆きつつも、何とかそれを良い方向に変えて行こうと多くの人が本気で立ち上がれば、前進を勝ちとることができる、そんな希望を持てる時代の息吹を感じます。
これは、「個人の尊厳」に最高の価値を置く日本国憲法が、あるべき政治の方向を示してきたからではないかと思います。なかでも私たちが世界に誇れる「9条」は、日本に戦争をさせず、戦争によって日本人や外国の人々の命が奪われることを、この64年間阻止しつづけてきました。
年のはじめにあたり、憲法9条の精神を家庭にも、ということを思います。DV根絶を目指す、NPO法人全国女性シェルターネットの主催で、「全国シェルターシンポジウム」が毎年開催されています。昨年は11月に宇都宮で開かれ、全国から、シェルター関係者、研究者、当事者、行政、被害者支援に携わる人など、2000人近い人が集まりました。
私も、帰りに「餃子」を食べることができると期待して参加しました。幸運にも当事務所ニュースレター前号のリレーエッセイを執筆された沼崎一郎先生の「なぜ男は暴力をふるうのか~DV加害者の実像と対策~」という講演を聴くことができました。なかでも「憲法9条を家族にも!」というお話に大変感銘を受け、是非大阪でも広めたいと思いました。沼崎先生のお許しを得てここにご紹介します。
<日本国憲法第9条>
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目標を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<家族の憲法9条>
我々男性は、正義とケアを基調とする家庭平和を誠実に希求し、父権の発動たるDVと、暴力による威嚇または暴力の行使は、家庭紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、身体的、精神的、経済的その他の支配力はこれを保持しない。男性の好戦権は、これを認めない。
「法は家庭に入らず」という格言のもとで、家庭内の暴力は、重大な人権侵害であるにもかかわらず、問題視されることなく長い間放置されてきました。けれども、日本国憲法は、14条で法の下の平等、24条で家族生活における両性の本質的平等をそれぞれ保障しています。対等・平等な関係性からは、相手を支配するための手段として暴力を利用するという発想は生まれません。外に向かって憲法9条を守れ!と叫んでいる人が、内(家庭内)では妻を殴って「法は家庭に入らず」と開き直るような事態があってはなりません。家庭でも、職場でも、教育の現場でも、それぞれ「9条」を掲げ、その精神を広めていきましょう。