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2009年01月30日
DV裁判事例
宮地 光子

「夫婦げんかの域を出ない暴力」に保護命令は不要? 弁護士 宮地 光子

【裁判官の認識はDV防止法以前のまま?】

夫や恋人など親密な関係にある男性から女性への暴力は、長い間、不問に付されてきた。「民事不介入」を建前とする警察にとって、「夫婦喧嘩」というレッテルは、家庭内の暴力を見て見ぬ振りをする格好の口実だった。そんな状況を大きく変えたのが「女性に対する暴力撤廃」を求める国連を中心とした世界的な取り組みだった。わが国でも、2001年10月からDV防止法が施行され、2004年、2007年と相次いで改正がなされて、DV防止法は強化されたはずだった。

ところが昨年7月、「DV防止法を運用する裁判官の認識は、DV防止法以前のまま?」と思わせる決定があった。

夫から酷い暴力を振るわれていたAさんは、ゼロ歳の長男を連れて逃げ出し実家に戻った。逆上した夫は、実家にまで追ってきて、玄関のガラスを蹴り割った。何をしでかすか知れない夫の言動に恐怖を感じたAさんは、行政機関を通じて保護された。夫の粗暴な性格からすると、夫がAさんや子どもを連れ戻そうとして、Aさんを追跡したり、また実家にやってきて暴力を振るう恐れは、依然として消えていなかった。私たちは、Aさんの代理人となって、DV防止法に基づき保護命令の申立てを大阪地裁に行った。

ところが裁判官は、この申立てを却下した。裁判官は、その決定のなかで、夫の妻に対する暴力を認定する一方、夫を引っ掻いたとか、肩を噛んだとかのAさんの行為を認定し、「夫の妻に対する『暴力』は、その暴力の内容・程度や、夫も同程度かそれ以上の反撃を妻から受けていることなどからすれば、夫婦げんかの域を出ないものにすぎないというべきである。」として保護命令申立てを却下したのである。

 

【十分な研修をうけた裁判官がDV事案を専門的に扱う体制を】

しかし夫の暴力を「夫婦げんかの域を出ないものにすぎない」などという時代錯誤の理由で容認する決定をそのままにするわけにはいかない。私たちは、すぐに即時抗告の手続きをとった。そして高裁では、地裁の決定が取り消され、Aさん・子ども・Aさんの両親らに対する接近禁止命令が認容された。高裁の裁判官は決定で次のとおり述べている。

「夫の暴力は,いずれも当事者のいわゆる夫婦喧嘩に際して振るわれたもので、その際、妻も、夫に対し、夫の腕や顔面等に傷が残るほどに引っ掻いたり、噛みつくなどしているものである。しかし、この点を考慮しても、夫の妻に対する暴行の態様は、足で転倒させたり、髪の毛を引っ張ったり、平手で顔面を殴打したり、腕で首を圧迫するなどというもので、およそ、いわゆる夫婦喧嘩に付随するものとして社会通念上不問に付されるような態様のものにとどまっているものとはいい難く、その攻撃の程度も、妻の夫に対する暴力に比べて、許容される範囲内のものと評価することはできず、悪質というべきである。」

この高裁の判断こそが、DVに対する正しい認識に基づくものと言えるが、地裁段階の裁判官の酷い決定のおかげで、申立から保護命令の発令までに45日もの期間を要した。この期間に、もしものことが起きていたらと思うとゾッとする。迅速な被害救済が求められているDV被害者にとって、DVに対する正しい認識をもたない裁判官に審理を担当されることは、このうえない不利益である。

DVに対する正しい認識をもった裁判官が、DV防止法を正しく運用する体制をどのようにして確保していけばいいのだろうか。裁判官に対する研修の必要性は言うまでもないが、DVに対する正確な認識は、多くのDV事案を担当するなかで培われて行くものでもある。DVについての十分な研修をうけた裁判官が、DV事案を専門的に扱う体制が、わが国においても検討されなければならない時期に来ているのではないかと思う。

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