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2009年01月30日
子ども

子どもの貧困の再発見 札幌学院大学教授 松本 伊智朗

学生のころ、児童養護施設で中学生の学習ボランティアをしていた。児童養護施設に聞わったのは、ゼミの友人が卒業論文の調査をしていたからで、つまリヤジウマだった。いったん出入りを始めると、メシが食える、フロに入れる、寝るところはある、若い女性が何人も働いていてなんとなくトキメクなど、一人暮らしの学生をひきつける要素がたくさんあり、そのまま何年か入り浸っていた。当時、児童養護施設の子どもの全日制高校への進学率がまだ30%程度で、多くの子どもが中卒で施設を出て往み込み就職をした。

15歳で学歴もなく、家族の応援もな<住み込みで働くということは、大変なことだ。労働条件も、決して恵まれていない。まだ15歳の子どもだから、周りと衝突して職場を飛び出すこともある。住み込み就職の場合、住むところを同時に失う。行くところがなくて友達の部屋などを転々とするが、そうした生活は次の仕事を探す余裕を奪う。行方がわからなくなる子どももいた。大学院に進んで研究者の卵になった私の最初の仕事は、こうした彼らの生活を聞き取って論文にまとめることだった。

ある17歳の少年は、夜間の仕事をして弟の面倒を見ていた。昼間に寝るのだが、ゆっくり休めない。体調が悪くても病院にいかず寝て直す、体温計は持っていないといっていた言葉が妙に印象的で、いまでもよく思い出す。本来、高校生活を満喫している年齢だろうに。私は話を聞くだけで、何も出来なかった。

出口の見えない袋小路のような毎日、ひとつの不運が次の不運をよんで雪だるまのように膨れあがる不利、能力やキャリアを形成する余裕がない、頼れる人がいない、仕事が不安定で収入が低い、貯金どころか借金がある、希望も歯止めもないその日暮らしの生活、同年代のほかの子どもとの大きな不平等、こうした状態を貧困と呼ばずして、何を貧困というのかと思った。論文の副題を、「貧困の固定的性格に聞する一考察」とつけた。
ただ当時は、こうした状態を貧困と考える人はまれだった。ボロボロのものを着ているわけではないし飢え死に寸前の状態にあるわけでもないからである。そして何より、こうした状態は彼らの親か彼ら自身の責任だと、周りも彼ら自身も考えていたからだ。

勉強が出来なかったから、健康に気をつけなかったから、離婚をしたから、甲斐性がないから、我慢強くないから、こうした理由で周りは彼らを責め、彼らは自分自身を責めていた。だから「社会的にどうにかしなければいけないこと」には、見えなかったのである。

あれから20年以上たった。当時と同じように人々は「自己責任論」を恐ろしいほど内面化している。彼らのような先の見えない袋小路のような生活はよリ広範に広がって、むしろ身近になった。こうした生活は、子どもらしい時間と経験を奪う。皆が皆を責め合って、社会がすさむ。

昨年の春、何人かの仲間と『子どもの貧困(明石書店)』という本を出した。秋には同学の知人が『子どもの最貧困・日本(山野良一、光支社新書)』、『子どもの貧困(阿部彩・岩波新書)』を出した。それぞれ売れている。「子どもの貧困」をテーマにした集会や報道も、一気に出始めてきた。何かがおかしいと内心怒っていた人が、たくさんいたからだと思う。子どもには愛情が大事という、それ自体は当たり前の言葉に邪魔されて、まっとうな子ども時代をすごすには一定のお金も社会的な支えも必要だし、それは親だけの責任ではないという当たり前のことが、これまで正面から議論されてこなかった。そう考えると、2008年は「子どもの貧困の再発見」の年である。
現状の共有も実践の試みも研究も、まだ穴だらけだ。これからの10年が勝負だと思う。

【プロフィール】

大阪府堺市生まれ。専門は社会福祉論。北海道子どもの虐待防止協会運営委員、雑誌『貧困研究(明石書店)』編集委員などを務める。主な著作に、『子ども保護のためのワーキング・トウギャザー一児童虐待対応のイギリス政府ガイドライン』イギリス保健省他など。

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