【改正のポイント・・・保護命令制度の拡充ほか】
本年1月11日、DV防止法の2回目の改正が施行されます。その主な点を紹介します。
今回の改正でもっとも注目すべき点は、保護命令制度が拡充されることです。
第1に、これまでは、配偶者から「身体に対する暴力」を受けた場合にのみ、保護命令を利用できたのですが、改正によって、「生命又は身体に対する脅迫」を受けた場合でも、将来、身体に対する暴力によって、生命又は身体に対する重大な危害を受けるおそれが大きい場合には、保護命令が発令されることになりました。
例えば、「別れたら殺すぞ」とか、「ぶん殴ってやる」とか、包丁などの凶器を持ち出されて「痛い目にあわせるぞ」と脅された場合などです。
裁判所が、個別のケースごとに、実際に受けた脅迫の内容や態様、被害者と配偶者との関係、配偶者の行動傾向などを総合的に考慮して、生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいかどうかを判断します。
第2に、6ヶ月間の接近禁止命令に加えて、被害者に対する電話や電子メールなども禁止できるようになります。
せっかく接近禁止命令が出ていても、配偶者からの電話や電子メールが何度も続いて、「戻らないといつまでも嫌がらせをされるのではないか」、「もっと怖い目に遭わされるかもしれない」という恐怖心等から、相手の下に戻らざるを得なくなったり、相手の要求に応じて接触せざるを得なくなったりすれば、生命・身体に対する危険が高くなり、せっかく接近禁止命令が出ていても、その実効性が失われてしまうため、電話等の禁止命令が設けられました。具体的には次の行為を禁止することができます。
① 面会の要求
② 行動の監視に関する事項を告げること等
③ 著しく粗野・乱暴な言動
④ 無言電話、連続しての電話・ファクシミリ・電子メール(緊急やむを得ない場合を除く)
⑤ 夜間(午後10時~午前6時)の電話・ファクシミリ・電子メール(緊急やむを得ない場合を除く)
⑥ 汚物・動物の死体等の著しく不快又は嫌悪の情を催させる物の送付等
⑦ 名誉を害する事項を告げること等
⑧ 性的羞恥心を害する事項を告げること等又は性的羞恥心を害する文書・図画の送付等
【さらなる改正につなげよう】
第3に、被害者の親族や「被害者と社会生活において密接な関係を有する者」も、その人たちの同意があれば、接近禁止命令の対象にできます。
これも、被害者への接近禁止命令が発令されているにもかかわらず、配偶者が被害者の親族等に対して、住居に押し掛けて著しく粗野・乱暴な言動を行う場合などすれば、被害者がその行為を止めるために、配偶者と面会せざるを得なくなり、接近禁止命令の実効性が失われることを防ぐためです。
「被害者と社会生活において密接な関係を有する者」とは、被害者の身上や安全などを配慮する立場にある者と解釈されています。職場の上司や知人・友人、配偶者暴力支援センターの職員、民間シェルターの職員等のうち、実際に継続的な保護や支援を行っている者が該当すると言われています。
以上のような保護命令制度の拡充のほかに、今回の改正では、これまでは都道府県のみに義務付けられていた基本計画の策定(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策の実施に関する)が、市町村にも努力義務として課されました。また、市町村の適切な施設において、配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにすることも市町村の努力義務となりました。
先に紹介したように、保護命令制度が「脅迫」の場合にも利用できるようになったことは、これまでは、どんなに恐ろしい脅迫を受け、現実的な身の危険を感じていても、直接の身体的暴力を受けていない(あるいはその証拠がない)というだけで、保護命令を申立てることができずに、避難後も怯え続けて生活せざるを得なかった被害者にとっては、朗報です。
また、実家に迷惑をかけたくないという思いから、長期間、親族との交流すら絶たなければならなかった被害者や子どもたちにとって、安心して親族等との関係が持てるということは、豊かな人間関係の中で社会生活を送るという意味でも、意義のあることではないでしょうか。
被害者の声から生まれた第二次改正をどんどん利用して、長期的な保護や自立支援の視点に立った、さらなる改正へとつなげていきましょう。