【面接交渉には問題が一杯】
離婚などにより別居している親が子どもに会うことを面接交渉といいます。
子どもの成長にとって、いろいろな人に愛情を注いでもらうのはとても大切なことですね。離婚してからも、別居している親からの愛情を子どもが安心して受け止められる環境をつくることができれば、子どもは幸せなのですが・・・・・・現実は理想どおりにいかないことが多く、悩ましい問題が一杯です。
面接交渉は、子どものよりよい成長のためのものです。
国連子どもの権利条約9条3項は、「子どもの最善の利益」に反する場合を除くほか、子どもが親と面接交渉する権利を尊重すると規定しています。
裁判所は、「子どもの福祉に適う」面接交渉でなければならない、と言っています。
問題は、事案ごとに、何が「子どもの最善の利益」「子どもの福祉」なのか、です。
離婚にいたる事情も、離婚後の生活も、ひとつとして同じものはありません。事案ごとに、「子どもの最善の利益」「子どもの福祉」を判断するのは、とても難しく、大変なのです。
例えば、子どもが面接交渉を嫌がっている場合、面接交渉は「子どもの最善の利益」「子どもの福祉」に反することになるのでしょうか。
「子どもが嫌がっているなら、子どものためにならないのは当然だ」と思われる方は多いでしょう。しかし、裁判所も必ずそう判断してくれる、というわけではありません。まず、本当に子どもが嫌がっているのか、親が嫌がっているから子どもも遠慮して嫌だと言っているのではないかが問題になります。幼い子どもが嫌だと言っても、よく理解していないから嫌と言っているだけで、親が説得して面接交渉をすることが「子どもの福祉」に適う、と判断されることもあります。裁判所の判断に当事者が納得できないこともしばしばで、とても悩ましいところです。
大きな葛藤を抱えた離婚の場合、面接交渉が子どもと暮らす親の鬱や不安の症状を悪化させるケースもあります。面接交渉を実施することで、子どもの日々の暮らしが不安定になり、子どもが不安になる・・・・・・このような状態は、子どもの最善の利益に反しますね。面接交渉を行うたびに、子どもが精神不安定になるケースも珍しくありません。
【待たれる支援体制の充実】
面接交渉の後に子どもが精神不安定になることを理由として、「子どもの福祉に適う」面接交渉とはならないとして、面接交渉を否定した判例もあります(平成8年3月18日審判 岐阜家裁大垣支部)。この事案は、夫の浮気が主たる原因で結婚が破綻した離婚後の面接交渉のケースです。離婚時に父親と当時2歳の長女との月1回の面接交渉が約束され、2回実施されました。しかし、面接交渉の時、父親が実家に長女を連れて行くと、長女は「早く帰りたい。ママに電話して」と言って父親を困らせました。
面接交渉の後、長女がわがままになり、泣きやすくなりました。母親が面接交渉を続けることは長女のためにならないと判断して、面接交渉を拒絶したところ、父親が夜中に母親と長女の住むアパートを訪ねて激しく母親を呼び、ドアを叩き、翌日には、駐車場で母親を待ち伏せ、路上で母親を大声でなじりました。このケースで裁判所は、母親がこまめに長女のビデオや写真を撮って、これを父親に送付する程度にすべきであると判断しています。
現実と理想のはざまで、面接交渉をめぐる争いは年々増加しています。司法統計によると、面接交渉の調停も審判も、この5年ほどで、ほぼ倍増しています。
アメリカには、ビジテーションセンターという面接交渉のための施設があり、第三者の同席と観察のもとでの面接交渉が可能です。しかも、寄付金や連邦政府の交付金の補助により、1回約8千円の実費がかかるところを約千円で利用できます。DVのケースなど監視つきの面接交渉が望ましい場合のために、スーパーバイザーという面接交渉の監督者もいます。日本にも、面接交渉に第三者が同席する民間のシステムも存在しますが、アメリカの制度のように、人的物的に整った施設を低料金で利用できるというものではありません。
日本でも、アメリカのような面接交渉の支援体制が整ったら、当事者の面接交渉をめぐる葛藤も少しは減り、面接交渉をめぐる争いも減っていくのかもしれません。