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2008年01月30日
性差別・ジェンダー
有村 とく子

「性」と人権 弁護士 有村とく子

【生きる意欲とエネルギーをもたらす性の営み】

本屋さんで平積みになっている本を立ち読みしているときに、ぱっと目についた「スローセックス実践入門」(アダム徳永著講談社プラスα新書)。「超話題のベストセラー」「彼氏に読んでもらいたい本ナンバー1です。」というキャッチコピーに惹かれて買いました。

性を話題にすることは、恥ずかしいこと、品位を欠くことと捉えられがちですが、これに関する情報は、過剰なまでに氾濫しています。自分の小中学、高校時代を思い起こせば、学校で教えられたのは、性感染症の恐ろしさや妊娠中絶が女性の心身に及ぼす悪影響についてでした。そういったマイナス部分が強調されるあまり、性についての興味は尽きない、でもなんだかいけないこと、という罪の意識を強く持ってしまいました。

けれども、愛し合う者同士の満ち足りた性の営みは、本来、生きる意欲とエネルギーをもたらす素晴らしいものです。性行為をするしない、どんな相手を選ぶか、子どもをつくるかどうかなど、「性」のありかたは、国や親、会社の上司や世間が決めることではなく、私たちひとりひとりが自分で決めることができる、そんな時代に私たちは生きています。

性の問題は、人権(自己決定権)にかかわる重要なテーマです。

【「大切にしあう」ことは平和教育の素地にも】

さて、この新書の中身ですが、読む人によって感想は様々でしょう。著者の略歴を読めば、「2004年、世界にも類をみない『セックススクールadam』を設立。男女の幸せをサポートすべく、アダム性理論とスローセックスの啓蒙活動に従事」とあり、本当にそんな学校があるの?という疑問もわいてきますし、「実践解説」を見ると、性行為至上主義にハマる新興宗教の教本ではないかと思えなくもありません。今日の商業的性文化のもとで、男性のための性の享楽情報として、もてはやされる可能性も否定出来ないと思います。

しかし、著者が、性において、「男性と女性とは等しく平等であるべき」とし、現在のようなハードプレイ全盛のアダルトビデオ(レイプ作品など刺激の強い作品)から得た、間違った情報を、男性が実際の性行為でそのまま真似て行うことは、女性の心と体を深く傷つけるものであるとして厳しく諫めているくだりなどは、大いに共感できるところです。彼は、「男性本位の、射精だけを目的とした、平均20分足らずの性行為(本書ではこれをジャンクセックスと呼ぶ)が、悲しいかな今、日本中に蔓延している」として、自分の提唱する性の対極において批判しています。

相手に奉仕させるだけの性には人間的なやさしさがありません。奉仕させられる側の人権をそこなっていることは勿論、奉仕させる者の心をも、むなしく、ささくれたものにしてゆくと思います。

著者は、読者として想定する男性に向けて、自分の享楽だけを追求するばかりでは「真の快楽」は得られないということを説いており、要は「男性の喜び」を極限まで追求するための指南書なのね、と解釈することもできます。

ただ、快楽の「相互性」に重点を置いた点が、これまでのような女性への差別やゆがんだイメージを育てる攻撃的な男性本位の性情報とはひと味違っていることは確かであり、また、そこが「彼氏に読んでもらいたい本ナンバー1」として女性からも支持されている所以ではないでしょうか。

自分を大切にし、相手を自分と同じように大切にする、互いに「大切にしあう」ことを平和教育の基礎に据えている国があると聞きます。

自分の欲求を一方的に押しつけないで、相手も自分も一緒に気持ちよくなりましょうと説いた本が世に出され、それがよく売れているということは、我が国でも平和教育の浸透しやすい素地ができつつあると喜ぶべきなのかもしれない。なんでも平和につなげていきたい私は、つい飛躍してそんなふうに考えています。

ことしも、いろいろな「つながり」を大切にして、喜びの種をたくさん見つけられる心豊かな一年でありますように。

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