私は司法試験の受験生時代、一時的保育事業(親が就業準備のため学校や研修機関に通う間、週に3日、乳幼児を保育所で預かってくれる制度)を2年間利用させてもらいました。登園する日は、連絡ノートの左半分に前日の夜と当日の朝の食事内容〈何を食べたか〉や子どもの様子〈新しく覚えたことばやしぐさ、その日の体調、心配ごとなど〉を書き、右半分に保育園の先生からその日の子どもの園での様子や運絡事項を書いてもらって帰るのですが、1歳から3歳までの間でこのノートは4冊たまりました。今も子どもの成長記録として大事に残してあります。
当時は初めての子育てで不安いっぱいの頃で、保育園の先生からは、専門家としてアドバイスや励ましを受け、そのおかげで親としても成長できたと思っています。子どもを迎えに行き、着替えや汚れ物をかばんに急いで詰めているときに、担任の先生が、背後から「お母さん、大変やね。」と優しく言葉をかけて下さり、その一言に救われて気持ちが楽になったこともありました。「子どもを保育所に預けるのはかわいそう。」と言う人がいますが、私の場合、全然そんなことはありませんでした。子どもは自宅とはひと味違った遊びを経験し、集団生活の中で友達と関わりを持ち、「一人っ子とは思えない。」と言われるほどたくましく成長しました。子育ての負担感は自宅で四六時中子どもを見ていたときよりもずっと少なくなったので、私も気持ちにゆとりを持って子どもに接することができました。このことは子どもにとっても良かったのではないかと思います。
あれから十数年経った今、財政難を理由に各自治体で公立保育所の民営化が急速に広がっています。私も2年前からある自治体の公立保育所の民営化裁判に関わり、保護者(原告)の代理人の一人として活動しています。原告のお父さん・お母さんたちは、充実した保育内容で名の知れたその公立保育所を選び、就学前までそこに子どもを預けようと思っていました。ところがその保育所が民営化され、保育士をはじめ職員が総入れ替えになってしまいました。それまで築いてきた保育士との信頼関係はぶつりと切れ、子どもたちにとっても保護者にとっても大変な不安と動揺を生みました。行政側は公立時代の保育内容を承継させると言っていたものの、引き継ぎのための期間は僅か3ヵ月という短期間で、民営化後の保育内容は、公立時代のそれとは相当異なるものとなってしまいました。結局そのしわ寄せは子どもたちに行きます。「子育て支援」とはほど遠いもの、それが今行われている民営化の実態です。
安心して子どもを預けられる保育所を増やすことこそが、真の子育て支援ではないでしょうか。私たちもまた、国や自治体に対して、公的保育の充実を求めて行動を起こす必要があると思います。