職場の中のパワー・ハラスメントにからむ相談を受けることが多くなった。職場で権力をもつ加害者が、自分より立場の弱い者に対して、その人格を否定するような言葉・態度(ハラスメント)を日常的に繰り返して被害者を追い込んでいく。そして加害者は、相手を傷つけることで自分の価値を高め、弱い自我を守ろうとする。そんな被害の訴えに耳傾けていると、家庭内のDV被害の構造と似ていることに驚かされる。DVの身体的暴力の土台には、必ずといってよいほど相手の人格を否定する言葉・態度(ハラスメント)が存在するからである。
そしてセクシャル・ハラスメントやDVがそうであったように、このパワー・ハラスメントも諸外国に共通した現象である。パワー・ハラスメントはモラル・ハラスメントとも呼ばれるが、フランスの精神科医による『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』(紀伊國屋書店)を読んでいると、まるで日本の職場のことが書かれているのかと錯覚を起こすほどである。
しかし現象は同じでも、すでにフランスでは2002年1月に労働法の中にモラル・ハラスメントを防止する条項がつけ加えられ、セクシャル・ハラスメントに続いてモラル・ハラスメントを法律によって防止するのが、ヨーロッパの趨勢になっているという。日本でもモラル・ハラスメントの防止を求める声をあげる時期に来ていると、深刻な相談に耳傾けながら思う昨今である。