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ニュースレター

2005年01月30日
性被害・セクハラ

危険なにおい 大阪大学人間科学研究科臨床心理学講座 助教授 西澤 哲(にしざわ さとる)

未成年の娘に対して性虐待をしていた父親に対する大阪地裁の判決に関する11月30日付の新聞報道を見た。検察の求刑が15年であったのに対して、判決はそれを上回る18年であったという。司法には疎い私にも、これは稀有なケースであろうことはわかった。そして、日頃から虐待を受けた子どもとのかかわりを本業としている私としては、「司法が子どもたちの傷の深さを理解し始めた」と喜ぶべきニュースなのだろう。

実際のところ、性虐待の被害を受けた子どもが親を相手取って訴訟を起こすケースが徐々にではあるが増えてきている(と、少なくとも現場感覚ではそう感じられる。実際の統計データは手元にはないが)現状において、司法はあまりにも冷たい。強姦罪の立証の困難さ、警察や検察調書や証言における子どもの心理的負担、こうした多大なる苦悩の末に下される判決の刑期の軽さなど、刑事訴訟や民事訴訟における子どもの負担とその結果とはあまりにもギャップが大きい、と常日頃感じてきた私には、今回の大阪地裁の判決はすばらしい、と言いたい。

しかしである。諸手を挙げて喜ぶことを阻害する想いが同時に起こるのだ。こうした考えは、それ自体が妄想的なものとして一笑に付されるかもしれないことは十分承知の上で言うと、この判決と現在法制審で議論されている少年法の改定の議論とに、どこか通底するものがあるのではないか、ということである。今回の判決も、少年法改定論議も、ある意味で加害者に対する重罰化傾向だと括ることができよう。

誤解しないでいただきたいのは、私は加害行為への重罰化そのものに反対する、というのでは決してない。そうした重罰化が客観的で科学的な検討の結果であるなら、当然、賛成である。しかし、少なくとも少年法の論議を傍目に見ている私にとっては、カロ害少年への現行の対応システムを客観的に十分に検討した末に今回の議論がなされているとは到底思えない。

では、何が重罰化の流れをつくっているのか。私には、「感情」の問題だと思えてしまう。もちろん、1995年の阪神淡路大震災を契機として被害者の心理・精神的問題に社会の関心が注がれ、それが被害者感情を重視するという傾向につながったことは、トラウマを専門とする私にとっては喜ぱしいことなのだ。しかし、そうした「感情」は科学という裏づけがあってこそのものではなかろうか。少なくとも司法や制度の領域では感情を重視しつつ、そこに客観性・科学性を冷静に担保していくことが大切なのだろうと思う。

これまで感情に冷徹であった司法が一気に感情論で突っ走ってしまう危険なにおいを感じ取ってしまう私は、今回の判決を素直に喜べなくなる。これが、へそ曲がりという職業病を抱えた一介の心理屋の杞憂に終わればよいのだが。

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