【1 算定表で審理の迅速化】
離婚の際に、一番頭を悩ませる問題が、妻の側の経済的不安です。
これまで婚姻費用分担や養育費請求の調停を申立てても、話合いが不調に終わってしまうと家庭裁判所の審判が出されるまでに、とても長い期間がかかることが少なくありませんでした。この状況を改めようと、東京と大阪の裁判官で構成された研究会が、昨年4月に「養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」を行い、家庭裁判所での実務はこの算定表に基づいて行われるようになりました。
この提案では、総収入から養育費や婚姻費用を算出する簡易な計算式を明らかにしています。そしてこの計算式を適用した結果を、義務者(多くは夫)の収入を縦軸、権利者(多くは妻)の収入を横軸にして一目でわかる算定表も明らかにされました。
この算定表が明らかにされてから、家裁の調停では、あらかじめ審判で出される婚姻費用の額や養育費の額を予想することができ、話合いで迅速にまとまることが多くなりました。また話合いがつかずに審判手続きに移行した場合でも、審判が出されるまでの期間がずいぶんと短縮されました。私の経験では、最近では審判手続きに移行してから早いケースですと1ヵ月から2ヵ月の間に審判が出されています。
【2 将来の養育費の取立てが可能に】
しかしながらこうして家裁で養育費や婚姻費用の調停が成立し、また審判が出されても、夫の方が任意に支払ってこない場合は、地方裁判所に強制執行の手続きを申立てて強制的に支払わせるしか仕方ありません。多くの場合は、夫の給料を差押さえて取り立てることになります。そしてこれまでは、すでに延滞になった額についてのみ執行することができ、まだ期限の来ていない将来の婚姻費用や養育費については執行することができない扱いでした。しかし昨年8月に成立した法改正では、一旦不払いが発生すればまだ期限が来ていない将来の婚姻費用や養育費についても執行の手続きが取れることになりました。また従来は、給料を差押える場合には、給料の4分の1までしか差押えができませんでしたが、今回の法改正で給料の2分の1まで差押えが可能になりました。
【3 財産開示手続】
またこれまでは養育費や婚姻費用について強制執行の申立てをしようとしても、夫の勤め先がわからなかったり預貯金のある金融機関や不動産の所在などを把握することができない場合には、強制執行の申立てをすることもできませんでした。そこで今回の改正法では、強制執行を申立てる債権者の側から、裁判所に対して、債務者に対して財産の開示を命ずるよう申立てのできる手続きが創設されました。この手続きが開始された場合は、債務者は、自己の財産について陳述し、裁判所や債権者の側からの質問に答える義務を負います。この義務に違反した場合には、過料の制裁が加えられます。
これら改正点は、本年4月から実施される見込みですが、これまでの養育費や婚姻費用の取り立て手続きからすると一歩前進とはいえるでしょう。しかし昨今の経済不況のなかで、夫白身が失業や事業の倒産により、そもそも支払能力のない場合も多く、このような場合は、強制執行による取り立てにも限界があります。離婚の際の妻の経済的不安の解消のためには、取り立て方法の改善だけではなく、生活保護による支援や、女性自身の経済的地位の向上のための取組み(就労支援や低賃金の是正など)が何よりも求められるところです。