【1 女性と年金】
昨年9月、厚生労働省の社会保険審議会年金部会から、「年金制度改正に関する意見」が出され、今年の国会で、年金制度の改正が行われることになります。法律相談でも、「離婚すると年金はどうなるのか?」と質問される方が増えてきていますので、現在の判例と改正の議論を紹介します。
現在の年金受給額は、男女で非常に大きな格差があります。公的年金や恩給の受給額を男女で比較すると、男性では200万円~250万円未満が最も多いのに対して、女性は40~80万円未満に最も多く集中しています。
現在の制度では、離婚をすると、妻には夫の年金を受け取る資格はありませんので、妻が専業主婦であった場合、自分の老齢基礎年金だけしか受給できず、その満額は月額6万7千円に過ぎないのです。
経済力のない高齢の女性にとって、離婚をしたいけれども、老後の生活が心配…というのが切実な悩みです。
【2 判例の到達点】
夫が受給している年金を、妻が離婚時に、財産分与として受け取ることができるのでしょうか。近年、妻に年金の分与を認める判決が出ています。
<1>夫の受給している年金の4割に相当する金額を、専業主婦であった妻に対して、扶養的財産分与として、毎月、支払うように命じた判例、<2>婚姻期間33年で、共働き28年の夫婦の場合に、夫婦間の財産分与の割合を50%であるとして、夫に対して、妻名義の年金と夫名義の年金の差額の半額を、妻に支払うように命じた判例などがあります。
しかし、判決で、夫から妻への年金の一部の支払いが認められても、<1>夫が判決に従わずに支払いをしない場合、夫に差押えるための預貯金等の財産がなければ、判決は何の意味もなくなる、<2>夫が死亡すると支払いを受けられなくなる、といった問題があります。
妻が夫から支払ってもらうのではなく、直接、国から、夫の年金の一部を受給できる権利が実現されるならば、これらの問題が解決することになるのです。
【3 改正の方向】
「年金制度改正に関する意見」は、現状では離婚した妻自身の年金だけでは生活保障は不十分なので、離婚時に夫婦の間で年金の分割が可能となるような仕組みを設けるべきであるとしています。ただし、制度改正後の離婚が対象になります。
その具体的な方法については、<1>受給権の発生した年金の年金額を分割する方法と、<2>受給権の発生前も含めて、保険料納付記録を分割し、分割を受ける者自身に「年金受給権」が発生する方法があると、両論が併記されています。また、分割の有無や割合については、<1>夫婦の合意で決める、<2>合意が得られない場合に裁判所で決定する、とされています。
そして、次期改正では、合意に基づく保険料納付記録(年金受給権)の分割を導入することは必要であるが、合意が得られない場合に、裁判上で、保険料納付記録(年金受給権)の分割請求ができるようにするためには、さらに検討が必要であると先送りにされています。
したがって、今回の制度改止では、離婚時に夫婦の合意による年金分割が可能となる見込みですが、合意が得られない場合の年金受給権の分割は実現されません。
女性が、経済的自立の困難さのために、やむなく離婚を思いとどまらざるを得ない現状が、少しでも改善されるように、男女平等の年金制度を実現したいものです。