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2015年07月22日
性被害・セクハラ裁判事例
宮地 光子

性暴力被害に逆転勝訴判決――判断を分ける裁判官の資質 弁護士 宮地 光子

【女性に多い「いたわって仲間になる」対処法】

昨年夏の事務所ニュースで、「トラウマ反応の性差」をテーマに、ある性暴力事件のことを紹介させていただいた。Aさんは、知人の男性Bと飲みに行き、時間は深夜になってしまった。Bは、店を出た後も、「ちょっと歩きたい」とAさんを誘い、真っ暗闇の凍てつく住宅街の中、Aさんを連れ回した。そしてBは歩きながら、何度もAさんを抱きしめたり、首筋にキスをしたりした。Aさんは、Bの足を踏みつけたり、その手にかみついたりして抵抗したが、逃げることまではできなかった。その時間は数時間にも及んだ。

被害に遭った数日後に、AさんはBに対して「あなたが触れてくるのを強く拒否しなかったし、嫌だと言って帰ることもしませんでした。……あの夜まではあなたのことをまだ友達になる人だと思っていたから、優しくしたいという気持ちもありました。でもきっぱり断って置き去りにしても帰るべきだった。そうしなかったことをとても後悔していて、今もとてもつらいです。」とメールを送った。その後、Aさんは、半年たってもこの夜の出来事がフラッシュバックしてくる苦悩の中で、刑事告訴を行なった。

しかし不起訴になり、Aさんは、諦めきれずに民事裁判を提起した。裁判の中で、Bは、Aさんに対して、わいせつ行為に及んだこと自体を否定してきたが、さらにAさんの主張が信用できない理由として、もしも本当にAさんが強制わいせつの被害に遭っていたのなら、途中、いくらでも逃げて帰るチャンスはあったはずなのに、Aさんは逃げなかった。だから、被害は存在しないと主張してきた。このBの反論は、「被害者は危険な出来事からは逃げるものだ」という、いわゆる「強姦神話」に基づくものである。

私は、このBの反論に根拠のないことを、「トラウマ反応の性差」を根拠に主張した。近年のトラウマ反応についての生物学的研究によれば、トラウマ反応についても、性差の存在することが明らかにされている。その中でも注目されるのが、女性に多いとされる「いたわって仲間になる」(tend and befriend)という対処法である。誰からの救いの手も期待できない状況のなかで、加害者を怒らせて、被害をさらに大きくするのではなく、いたわることによって生き延びようとする人間の生存をかけた反応である。

 

【裁判は人間性が問われる作業】

しかし昨年7月28日に下された大阪地裁判決は、Aさんの敗訴だった。Aさんの刑事告訴が、被害の半年後になされたことを、Aさんに不利益に判断し、Aさんが被害後にBに送ったメールに「強く拒否しなかった」とあることを理由に、Aさんが、Bの足を踏みつけたり、その手にかみついたりして抵抗したという主張を信用できないとした。さらに現場から逃げ帰るのは、Bの仕返しが怖くてできなかったと言いながら、Bの足を踏みつけたり、その手にかみついたりして抵抗したというのは不自然であるとして、Aさんの主張を認めなかった。しかしAさんは控訴し、本年2月24日に高裁判決が言い渡された。大阪高裁は地裁判決を取消し、Bに80万円の慰謝料の支払いを命じた。

高裁は、「わいせつ行為を受けた被害者が、いかなる対応をするかは、当該加害者との関係、当該被害の状況、その後の被害感情の程度により、種々異なり得るものである」として、Aさんの刑事告訴が半年後になったことにも、相応の理由があるとし、さらに、Aさんが被害に遭っている最中に、「更に深刻な被害を避けようとする一方で、強く抵抗したり、逃げ出したりすることは、実際問題としては必ずしも容易ではない」と判断した。地裁と高裁の判決の結論の差を分けたのは、何なのだろうか。

それは、事実を丁寧に、偏見のない目で見ることができるかどうかという、裁判官の資質の差であると思う。地裁・高裁の判決を、読み比べてみて、裁判とはいかに人間性の問われる作業なのかと、私は改めて気付かされた思いがしている。

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