【「2分の1ルール」とは】
離婚に際して協議する事項の中に財産分与があります。日本の夫婦の場合、夫名義で家を買ったり、夫名義で家族の保険に入るなど、財産形成が夫の名を用いてなされることが多いのですが、財産分与では、名義の如何を問わず、夫婦が協力して形成した財産を実質共有財産として清算をすることになります。そして、このときの清算割合(寄与割合)は、原則2分の1とされています。いわゆる「2分の1ルール」と呼ばれるものです。
かつて、夫が仕事、妻が家事育児を引き受ける専業主婦型夫婦の場合、財産形成に対する妻の寄与割合を均等とせず、3割程度に低く評価する時代もありました。しかし、家事労働の過小評価への批判や、性別役割分業によって所得を得る能力に不均衡が生じることへの考慮から変更が加えられ、現在、寄与割合を原則平等とする実務が定着したと言われています。「2分の1ルール」は性別役割分業が根強い伝統的な社会において、離婚によって経済的な困難に陥る弱者を救済するための一つのルールとして発展していったものです。
【夫婦間に開きがある総労働時間】
さて、時代は変化し、専業主婦世帯と共働き世帯の数は1990年代、逆転しました。平成25年の統計によると、専業主婦世帯は745万世帯、共働き世帯は1065万世帯となっており、今や、共働き世帯が多数派となってきました。ただし共働き夫婦が増えてきたこと、イコール、家事育児も夫婦で同等に担うように変わってきているかというと、話はそう単純ではありません。
妻の週間就業時間が35時間以上の共働き世帯における夫と妻の「仕事・通勤時間」と「家事・育児・介護時間」を比較した統計があります(総務省「社会生活基本調査」(平成18年))。これによると、妻の仕事等時間は6時間36分、家事関連時間が3時間25分と合計10時間01分であるのに対し、他方夫の仕事等時間は8時間19分、家事関連時間は33分と合計8時間52分となっており、総労働時間は1日1時間以上の開きがあります。
【納得できない、夫からの「2分の1ルール」の主張】
最近こういう事例がありました。共に60歳を超えた熟年夫婦の離婚です。会社員、公務員としてフルタイムで働き続け、双方とも同程度の年収でした。夫は浪費や異性関係で家庭を顧みず、家事育児を分担することもありませんでした。双方に収入がありますから、各自が家計費を出しあい、家計費支出後のお金については双方不干渉でした。
定年後、離婚。離婚後しばらくして夫が妻に対して、自分には預金がないが妻には預金があるとして、妻の預金の2分の1を財産分与請求してきたという事例です。フルタイムの正社員でしたから、仕事時間はほぼ同じです。他方、妻は仕事に加え家事育児をほぼ全て担ってきました。無償労働を1日平均3時間として年間で約1000時間、子育て期を仮に20年として約2万時間、夫よりも、より長く、労働(有償+無償)をしてきたという計算も可能です。夫からの突然の「2分の1ルール」の主張は、妻にとって、到底納得のいくものではありません。
専業主婦の無償の家事労働に対する評価から「2分の1ルール」は作られてきましたが、フルタイム共働き夫婦の上記のような事例で、裁判所はどのように公平な結論を導くのか、気になります。