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ニュースレター

2017年01月11日
面会・養育費
乘井 弥生

「親子断絶防止法案」に反対します  【弁護士 乘井弥生】

【知らないうちにこんな法案が】

超党派の国会議員による議員連盟(「親子断絶防止議員連盟」)が、「親子断絶防止法案」の提出準備を進めています。この法案は、離婚に直面する女性や、母親と一緒に暮らす子どもに直接影響するものであるにもかかわらず、女性や子どもの声が反映されたものとは言い難い内容を含んでいます。

内容の一部を紹介します。まず、基本理念です。法案は、基本理念として、「父母の離婚等の後も子が父母と親子として継続的な関係を持つことについて、それが原則として子の最善の利益に資するものであるという基本的認識をもつ」と、述べています。

昨今、家庭裁判所では「面会交流原則実施」の運用がなされていて、時に、その機械的ともいえる運用が、当事者を苦しめ悩ませています。法案は、「非監護親と子」との定期的な面会交流を「善」とみなすということを宣言している点で、現在の家庭裁判所の運用をさらに進めようという意図が読み取れます。

過去のニュースレターでも書きましたが、私自身、非監護親と子どもとの交流が子どもの幸せにつながる一般的意義を否定するものではありません。むしろ、これから社会が支援に力を入れていくべき分野だとの強い思いがあります。けれども、離婚後も継続的な関係を持つことが子どもの幸せに資することにならないケースが世の中にはたくさんあることも見ており、「善」であるとの決めつけには、大きな疑問があります。

 

【良好な関係」は一方当事者だけで作られるものなのか?】

具体的に法案は第7条で、面会交流について以下のように記載しています。

(法案・第7条「面会交流の定期的な実施等」)

1 子を監護する父又は母は、基本理念にのっとり、子を監護していない父又は母と子の面会交流が子の最善の利益を考慮して定期的に行われ、親子としての緊密な関係が維持されることとなるようにするものとする。

何が問題なのでしょうか。法案の主語を見ると、子と「同居する親」に、一方的に義務を課す内容となっています。つまり、監護親は、「非監護親と子」が定期的に面会し緊密な関係が維持されるようつとめることを義務づける内容となっています。日本では、離婚にあたり、子の監護者となるのは8割以上が女性ですから、いわば、母親(女性)に対して、「父親(男性)と子の緊密な関係を維持すること」を義務づける内容となっているのです。

「親子としての緊密な関係」とはどういう関係なのでしょうか。「命令し、服従させるような親子関係」でも緊密な関係を続けるのが子どもにとっていいのでしょうか。離婚によって一定の距離を置いた方が子どもの情緒の安定のためにいい親子関係も少なからずあります。

また、仮に善意に解釈して、「緊密な関係」を「良質な関係」あるいは「良好な関係」と読み替えたとして、果たしてそのような関係は、一方当事者の努力だけで継続されるものでしょうか。

離婚に至るには様々な理由があり、大なり小なり葛藤が存在します。葛藤を乗り越え、子どものために「良好な関係」を築き、そのような「良好な関係」の元で「非監護親と子」との交流を保障するというのは「美しいこと」のように見えますが、人と人との「良好な関係性」は、一方に義務を課すことで形成されるものではありません。別れて暮らすようになったあとも、お互いに敬意をもったふるまいをもって関係を維持するためには、相互の努力が不可欠です。にもかかわらず、「非監護親と子」との緊密な関係の維持だけを、監護親に課すというのは不合理ですし、第一に、最も尊重されるべき子どもの心を無視することになります。

「親子断絶防止法案」は、面会交流の問題だけではなく、「子連れ別居」を「子の連れ去り」として抑止しようといった内容も含まれています。

今後、この法案提出の動きを注視し、反対の声をあげていく必要があると思います。

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